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東京地方裁判所 昭和32年(刑わ)4467号 判決

被告人 少年 Y

主文

被告人を懲役二年以上四年以下に処する。

理由

被告人は、満十九歳の少年であるところ、

第一  (1) 昭和三十二年八月二十三日頃の午後八時三十分頃東京都墨田区○○町西×丁目△番地先京成電車線路下空地においてM(当二十年)に対し、かねて同人に恐喝されたことを警察に申告したことに因縁をつけ、西洋剃刀を見せびらかしながら、「お前はチックリ(密告の意)したな。話の出ようでは俺にも考えがある。今度は少し大きいんだ。二千五百円都合しろ。」などと申し向け、同人を畏怖させた上、同人から、即時同所で現金千三百円、同月二十五日頃同町西×丁目△番地南竜喫茶店内で現金五百円、同月二十六日頃、同町西×丁目△△番地○○湯附近路上で現金七百円の各交付をうけ、もつて同人から現金合計二千五百円を喝取し、

(2) 同年九月上旬頃の午後五時頃同区○○町西×丁目△△番地○○湯附近路上において右Mに対し、被告人がNを通じ金員を要求したのを拒んだことに因縁をつけ、「俺はお前にハンチク言われて友達に恥をかいた。お前俺にそんなこと言える柄か。どうしても千円都合して来い。金ができなければ着ている服を脱げ。」と申し向け、その顔面を殴打する等して右Mを畏怖させ、金品を喝取しようとしたが、同人がその場から逃げ去つたためその目的を遂げず、

(3) 同月上旬頃同区○○町西×丁目△△番地○方において同人を通じP(当十七年)に対し、かねて被告人が右Pに金千円を要求して拒まれたことに因縁をつけ、「金を持つてこなければただではおかない。」旨申し向け、同人をして右の要求に応じないとどんな危害を加えられるか知れないと畏怖させ、同夜同区同町西○丁目××番地附近の路上において同人から今泉を通じて現金八百円の交付をうけてこれを喝取し、

(4) 同月十日頃の午後九時頃同区××町△丁目○○番地先路上においてかねて被告人をおそれているQ(当十六年)に対し、「三百円都合してくれ。今ないなら明晩九時までに必ず此処へ持つてこい。」と申し向け、同人をして右の要求に応じないとどんな危害を加えられるか知れないと畏怖させた上、翌十一日頃の午後九時頃同所附近において同人から現金二百円の交付をうけてこれを喝取し、

(5) 同月中旬頃同区○○町西×丁目△△番地先路上においてかねて被告人をおそれているO(当十六年)に対し、「ツヂセン持つてこい。」と申し向けた上同人の顔面を殴打するなどして一層同人を畏怖させ、よつて翌日夜同所で同人から現金一千円の交付をうけてこれを喝取し、

(6) 同月二十三日頃の午前九時三十分頃同区同町西×丁目△△番地先路上に前記Mを呼び出し、同人が被告人をおそれているのにつけこみ、「飯を食う金がないからパーティ券を買つてくれ。」と申し向け、右の要求に応じないとどんな危害を加えられるか知れない旨暗示してMを畏怖させた上、即時同所において同人からダンスパーティ券の代金名下に現金二百円の交付をうけてこれを喝取し、

(7) 同月二十四日頃の午後十時三十分頃同区同町西×丁目△△番地先路上においてR(当二十年)に対し、「二千円都合しろ」と申し向け、金がないと拒まれるや、矢庭にその腹部を蹴上げるなどした上、「何とかして金をつくつてこい。」と申し向け、同人を畏怖させ、即時同所において同人から現金二千円の交付をうけてこれを喝取し、

(8) 同月十月二日頃の午後十一時頃同町○○○○映画館附近路上において、前記Qに対し、「五、六百円都合してくれ。明日朝七時までに××映画館の前まで持つてこい。」などと申し向け、右の要求に応じないと危害をも加えかねまじい態度を示して同人を果怖させ、翌日午前七時頃同区××町△丁目○○番地××映画館前路上において同人から現金四百円の交付をうけてこれを喝取し、

(9) 同月二日頃の午前十一時頃同区同町東×丁目△番地先路上においてS(当十八年)に対し、「金を二千円貸してくれ。俺は○○町には怖いものはないんだ。」などと申し向けて同人を畏怖させ金品を喝取しようとしたが、同人の友人等が来合わせたためその目的を遂げず、

(10) 同月三日頃の午後三時頃Tと共謀の上、右同所で右Sに対し、被告人が「三百円貸してくれ」と申し向け、Tが刃渡り約十五糎位の短刀を見せびらかすなどして右Sを畏怖させ、同人から金品を喝取しようとしたが、同人が逃げ去つたためその目的を遂げず、

(11) 同月三日頃の午後七時頃同区○○町×丁目△△番地先路上においてU(当十八年)を「一寸来い」と呼び止めた上矢庭に同人の顔面を殴打し、同人を附近の暗がりへ連れ込み、「金を二、三千円都合しろ」と申し向け、ないとことわられるや「それでは時計を貸せ。はずさないと殴るぞ。」などと申し向けて同人を畏怖させ、即時同所において同人から同人所有の腕時計(価格七千円位相当)の交付をうけてこれを喝取し、

第二  (1) 同年九月二日頃同区同町×丁目△△△番地○○橋附近路上において前記Qに対し、返す意思がないのにあるように装い「二三十分で返すから自転車を一寸貸してくれ。」と申し向け、同人をしてその旨誤信させた上、即時同所において同人から寸借名下に同人所有の中古自転車一台(価格一万五千円相当)の交付をうけてこれを騙取し、

(2) 同年十月五日頃同区○○町西△丁目△△番地先路上においてV(当十八年)に対し、返す意思がないのにあるように装い、「直ぐ帰つてくるから一寸自転車を貸してくれ。」と申し向け、同人をしてその旨誤信させた上、即時同所において同人から寸借名下に同人所有の中古自転車一台(価格一万五千円位相当)の交付をうけてこれを騙取し、

第三  同年十月二日頃の午後一時頃Tと共謀の上、同区××町△丁目○○番地所在アパート建築工事場において、W所有の真鍮製ワイ型カラン十四個及び鉛管約三米(価格合計五千七百円相当)を窃取し、

第四  何等法定の除外理由がないのに、

(1)  同年八月下旬頃から同年十月二十一日までの間肩書住居において刃渡り約二十糎の短刀一口を所持し、

(2)  同年九月上旬頃から同年十月二十一日までの間肩書住居において刃渡り約十五糎の匕首一口を所持し、

(3)  同年十月十日午前十時四十分頃同区○○×丁目△番地先○○公園内において刃渡り約二十五糎の短刀一口を所持していたものである、

(中略)

法律に照すると、被告人の判示所為中第一の(1)及び(3)から(8)まで並びに(11)の各点はいずれも刑法第二百四十九条第一項に、第一の(2)(9)(10)の各点は同法第二百五十条第二百四十九条第一項に((10)については更に同法第六十条にも)第二の(1)(2)の各点は同法第二百四十六条第一項に第三の点は同法第二百三十五条、第六十条に、第四の(1)から(3)までの各点はいずれも銃砲刀剣類等所持取締令第二十六条第一号第二条に該当するところ、第四の各罪について所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので、同法第四十七条本文第十条を適用し最も重い第二の(2)の罪の刑に法定の加重をし、なお、被告人は少年法にいう少年なので、同法第五十二条第一項第二項を適用し、前記の刑期範囲内で被告人を懲役二年以上四年以下に処し、訴訟費用は、被告人が貧困のため納付することができないこと明白であるから、刑事訴訟法第百八十一条第一項但書により被告人に負担させないこととする。

最後に、刑の量定の事情について一言説明する。

本件犯行は、その態様および手段において大胆をきわめたものであること、主として年少者に対して加えられたものであること、一定の地域で連続的に行われたものであること等特に注目すべきものがある。単なる不良少年の悪行として宥恕するには、その被害あるいは及ぼした影響は、あまりに重大である。要するに、本件犯行自体については、何ら同情すべき点はないといわなければならない。のみならず被告人の前歴にも問題がある。被告人は、昭和二十七年頃から窃盗、器物毀棄、覚せい剤取締法違反等で検挙されること六回に及び、しばしば少年鑑別所、少年院等に送致されているのであるが、この間ほとんど反省のあとはうかがわれない。このような事情で、現在では親兄弟の力でも、どうすることもできない状況にあると思われる。この際大切なことは、まず被告人自身その犯した罪の重大性を認識し、反省することである。このことなくしては、将来も同じ過ちをくりかえすだけであろう。被告人は、親兄弟が親身になつて自分のことを考えてくれないと訴え、今なお自棄的態度を改めないが、これは被告人の自己弁護でなければ、その思いすごしである。彼らが蔭でどれほど被告人のために悩み苦しみその更生を祈つているかは、当裁判所で取り調べた実母の証言によつても明らかである。当裁判所としても、徒らに被告人の過去にこだわり、これを責めるものではない。その罪は罪とし、被告人が思慮分別の至らない未成年者である点については特に同情し、その速やかな更生を望んでいるのである。しかしながら、本件犯行の態様、被告人の前歴等にかんがみるならば、この際被告人に対しては、相当長期の実刑を科する以外に、よい方法はないと思われる。なぜなら、被告人をして身をもつて犯行の償いをさせ、深く過去を反省させるとともに、規律ある生活のもとに何らかの技術を身につけさせ、再起をはからせることが、最善であると信ぜられるからである。以上の理由で被告人を懲役二年以上四年以下に処することとしたわけである。

そこで主文のとおり判決する。

(裁判官 横川敏雄)

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